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両袖にただ何となく時雨かな　　広瀬惟然　季
おもたさの雪はらへともはらへとも　　広瀬惟然　季
梅の花あかいは赤いはあかいはな　　広瀬惟然　季
彦山のはなはひこひこ小春かな　　広瀬惟然　季
長いぞや曾根の松風寒いぞや　　広瀬惟然　季
凍つきは凍つきながら笹の風　　秋の坊　季
正月四日よろづ此の世を去るによし　　秋の坊　季
稲つむと見せて失せけり秋の坊　　近藤李東　季
シクラメンをみなの恋の篝とも　　小元洋子　季
書て見たりけしたり果はけしの花　　立花北枝　季
夕風になに吹きあげて朧月　　立花北枝　季
夏酒やわれと乗りこむ火の車　　立花北枝　季
水母また骨を探してただよへり　　岩淵喜代子　季
牛馬の臭みもなくて時雨かな　　浪化　季
瘠顔に団扇をかざし絶し息　　杉山杉風　季
蚊のすねも達者に見ゆる夏の中　　杉山杉風　季
わが庵の桜も寂し煙り先　　志太野坡　季
垣潜る雀ならなく雪の跡　　志太野坡　季
若水や冬は薬にむすびしを　　志太野坡　季
花にうづもれて夢より直に死なんかな　　越智越人　季
猫柳高嶺は雪をあらたにす　　山口誓子　季
来て見ればほほけちらして猫柳　　細見綾子　季
猫柳斯く揺り光る瀬のゆくへ　　中島斌雄　季
合点じやそのあかつきの子規　　岩田涼菟　季
それも応これも応なり今朝の春　　岩田涼菟　季
身の上をただしをれけり女郎花　　岩田涼菟　季
をがみ伏して紅しぼる汗拭　　河合曾良　季
終宵秋風聞くや裏の山　　河合曾良　季
千貫目ねかせてせわし年の暮　　河合曾良　季
春に我乞食やめてもつくしかな　　河合曾良　季
初夢や通天のうきはし地主の花　　山口素堂　季
年もはやなかばながれつ御祓河　　山口素堂　季
池に鵝なし仮名かき習ふ柳かな　　山口素堂　季
旨すぎぬ心や月の十三夜　　山口素堂　季
よき物を笑ひ出しけり山桜　　中川乙由　季
閑古鳥われも淋しいか飛んで行く　　中川乙由　季
死んで置いて涼しき月を見るぞかし　　高野百里　季
浮草や今朝はあちらの岸に咲く　　中川乙由　季
百姓の鍬かたげ行くさむさかな　　中川乙由　季
もえやすく又消えやすき螢哉　　向井千子　季
伊勢までのよき道づれよ今朝の雁　　向井千子（伊勢紀行）　季
八月や矢橋へ渡る人とめん　　向井千子（伊勢紀行）　季
曉の三日月みたる途すがら　　向井千子（伊勢紀行）　季
手のうへにかなしく消る螢かな　　向井去来　季
無き人の小袖も今や土用干　　松尾芭蕉　季
金の輪の春の眠りにはひりけり　　高浜虚子　季
糸尽きしも知らで梭をうつ春眠し　　高田蝶衣　季
春眠のこの家つつみし驟雨かな　　星野立子　季
春睡やむかし四睡といふありて　　水原秋桜子　季
春眠をむさぼりて悔なかりけり　　久保田万太郎　季
春眠の睫毛曙光を感じつつ　　西島麦南　季
一息にこの味はひぞ春の水　　柳川琴風　季
あたたかく野の靄つつむ忘れ鍬　　能村登四郎　季
射すひかり石を包みてあたたかし　　野見山朱鳥　季
春ぬくし旋風うつろふ桑畑　　飯田蛇笏　季
井戸端の桜あぶなし酒の酔　　秋色　季●
見し夢のさめても色の杜若　　秋色　季
もののふの紅葉にこりず女とは　　秋色　季
蜆とり早苗に並ぶ女かな　　秋色　季
うすらひやわづかに咲ける芹の花　　宝井其角　季
うすら氷の模様の底や常闇に　　平畑静塔　季
せりせりと薄氷杖のなすまゝに　　山口誓子　季
空を出て死にたる鳥や薄氷　　永田耕衣　季
田に押入り八郎潟の春氷　　加藤楸邨　季
あべ川の春の氷や古紙子　　西山宗因　季
一声や犬西行にほととぎす　　大淀三千風　季
今日ぞはや見ぬ世の旅の衣がへ　　大淀三千風　季
空蝉はもとのすがたに返しけり　　立羽不角　季●
けし坊主木の端でなし草の端　　立羽不角　季
山を裂く刀も折れて松の雪　　大高子葉　季
梅で呑む茶屋もあるべし死出の山　　大高子葉　季
日にやけていざ笑はれう山桜　　大高子葉　季
なき跡もなほ塩梅のめうどかな　　水間沾徳　季
鶯にこの辛子酢は泪かな　　宝井其角　季
枝葉まで名残の霜の光りかな　　貴志沾州　季
その骨の名は空にある雲雀かな　　桑岡貞佐　季
晴れゆくや日頃心の花曇り　　萱野涓泉　季
墓原や秋の蛍のふたつみつ　　加藤原松　季
待宵やあすの命はあすのこと　　加藤原松　季
憲兵の前で滑って転んぢやつた　　渡辺白泉　季
陰もあらはに病む母見るも別れか　　荻原井泉水　季
高麗船のよらで過行霞かな　　与謝蕪村　季
前山の吹きよどみゐる霞かな　　芝不器男　季
一人づつ渡舟を下りる霞かな　　高浜虚子　季
霞濃し胸おしつくる海の柵　　山口誓子　季
橋桁や日はさしながら夕霞　　立花北枝　季
春なれや名もなき山の朝がすみ　　松尾芭蕉（野ざらし紀行）　季●
梅の花こたへて曰く梅の花　　松木淡々　季
朝霜や杖で画きし富士の山　　松木淡々　季
口癖のよし野も春の行衛哉　　松木淡々　季
風かをる越の白嶺を國の華　　松尾芭蕉　季●
飛んで入る手にもたまらぬ霰かな　　春帆　季
何事もなき野分跡　　桑岡貞佐　季
中椀に白がゆ盈てり十三夜　　桑岡貞佐　季
埋火や野辺なつかしき蕗の薹　　早野巴人　季
こしらへて有とはしらず西の奧　　早野巴人　季
一夜づつ淋しさ替はる時雨かな　　早野巴人　季
満点の星に旅ゆくマストあり　　篠原鳳作　季
船窓に水平線のあらきシーソー　　篠原鳳作　季
幾日はも青うなばらの圓心に　　篠原鳳作　季